プロジェクトタイトル
ピレネー山村地域と繋がる:価値教育の手法を用いた観光実践教育プログラムの開発
研究ユニット
代表者
メンバー
プロジェクト期間
2024年5月10日 ~ 2025年3月31日
プロジェクト概要
価値教育とは幅広い意味を含むが、一般には市民性や多文化教育、自律的な価値判断を育成する教育という意味で使われることが多い。ここでは、サステナブルツーリズムを実現するのに必要な「価値」を醸成するような教育という意味で用いている。本研究は、まずサステナブルツーリズムの実現に必要な価値とはどういったものかを学術的に検討する。さらに、こうしたサステナブルツーリズムの実現をめざすピレネー山脈と北スペインを専門とする旅行会社およびピレネー山脈麓の村の自治体と協働し、価値を重視した実践的な観光教育プログラムの開発を行う。
成果報告
本プロジェクトでは「価値観に基づく学び」を重視した実践的な観光教育プログラムを開発した。本プログラムの対象は、日本で観光学を学ぶ大学生であり、プログラムの実施場所として、グリーンツーリズムやルーラルツーリズムが普及している北スペイン?ピレネー山脈地域を選定した。
プロジェクトの第1フェーズでは、北海道大学で開催された価値観に基づく学習に関するワークショップへの参与観察や、Johan Edelheim教授らをはじめとする複数の観光学研究者?実務者への聞き取り調査を通じて、変容的アプローチを本プロジェクトの背景理論として採用した。変容的アプローチは、価値を複数の種類に分類し、教員と学生が共に考えながら価値や価値観を具体的に理解することを促すプロセスである。これにより、学生は批判的な自己省察に深く関与し、倫理観や価値観を自覚し、最終的に世界観の変化へとつなげる。本プロセスは、将来の観光専門家となる学生たちの内面的な意識と倫理的自覚を育み、サステナブルツーリズムのさらなる実現可能性へとつながる。プログラムの実践的な枠組みは、Teaching Tourism: Innovative, Values-Based Learning Experiences for Transformative Practices(Edelheim et al., 2022)で紹介されている学習アクティビティや、Arcodia & Dickson(2021)の事例を参考に作成した。
第2フェーズでは、前述の枠組みに基づき、プログラムの活動内容と訪問先の策定?精査を行った。スペイン?中央ピレネー山脈地域に位置するアラゴン州ウエスカ県を訪問し、現地コミュニティの人々への聞き取り調査を実施するとともに、現地視察と観察を行った。北スペインを専門とする現地旅行会社の代表Maria Susin Cirac氏及びコーディネーター兼スペイン政府公認ガイドの細川桜氏の協力のもと、その土地ならではの文化や活動をプログラムに組み込むことで、新たな視点が得られるよう設計した。また、それに伴い、事前?事後の学習内容や活動についても検討?策定した。
本プロジェクトの成果として、上記の通り開発したプログラムに6名の観光学部生が参加を希望し、2024年10月から事前研修を開始、2025年3月14日~25日にスペインを訪問した。
<発表?報告?掲載>
第一に、北海道大学で開催された価値観に基づく学習に関するワークショップにおいて参与観察と聞き取り調査を実施し、その結果を基にフィールドノートを執筆し、Wakayama Tourism Review に投稿した。次に、プログラムの開発段階から現在に至るまでに得られたデータとその分析結果をまとめ、今後の研究の方向性とともに、日本観光ホスピタリティ教育学会第24回全国大会(大阪府茨木市開催)の英語セッションにおいて発表した。この研究成果は学会要旨集に掲載され、英語セッションでも発表を行った。