プロジェクトタイトル
古くて新しい観光案内‐吉田初三郎が描いた鳥瞰図による観光教育と観光への誘い
研究ユニット
代表者
メンバー
Mohamed Elbarbary, 石川 肇, 山北 隆太郎
プロジェクト期間
2024年5月10日 ~ 2025年3月31日
プロジェクト概要
大正時代から昭和初期にかけての観光ブームに吉田初三郎式鳥瞰図を用いた観光案内(印刷折本)が人気を博した。初三郎は全国各地を巡るなか、和歌山にも足を運び、和歌浦、白浜、高野山などを鳥瞰図に描いている。2023年度は、その鳥瞰図を活用して現在の若者の嗜好に合致するような『昭和レトロな和歌山案内―和歌山市?和歌浦編―』に編集し、かつての名所と比較しながら現在の観光地を巡るスローでレトロな旅へ誘うことを目的とした観光パンフレット(日本語版)として発行した。和歌山県立美術館や南海和歌山市駅に直結した和歌山市民図書館の入り口で配布されるなど一定の好評を博した。
しかしながら、この実践的な取り組みに関して、昨年度はその効果をデータとして示すにいたっていない。そこで、2024年度の研究では、(1)大学生世代の若者等を対象として、観光パンフレットに関するアンケート調査やモニター調査を実施することによって検証を行う。(2)新たに「白浜編」を日本語?英語の両言語で発行し、和歌山県の外国人来訪者を対象とした研究にも着手する。
インターネットであらゆる観光の情報が入手可能な時代である一方、さまざまな観光パンフレットが多数発行されている。そのようななか、吉田初三郎の鳥瞰図を活用することの意味は、大正?昭和の観光ブームの観光地と現在の観光地を比較し、時間軸で観光地の変化を見て取ることが可能となる点にある。その点を活用し、本研究では、(3)学生や生徒達の地域教育、歴史教育、環境教育にも活かす方法を検討し提案する。(4)また同パンフレットは情報を得るための手段としてだけでなく、アートとしての側面から、旅行後も観光者のもとに旅の思い出とともに保存されることを期待し、初三郎鳥瞰図のアート性についてもパンフレット制作のベースとして研究する。
成果報告
2023年度、大正時代から昭和初期にかけての観光ブームに人気を博した吉田初三郎式鳥瞰図を用いて、『昭和レトロな和歌山案内 和歌山市?和歌浦編』を発行した。これは和歌山市内いくつかの施設に配布され一定の好評を博し、海外の研究者からもデザイン性がすばらしく英語でも発行してはどうかと助言を受けた。こういった背景もあり、2024年度のプロジェクトでは、日本語版と英語版のパンフレットの制作を目指した。また、この実践的な取り組みに関して、昨年度はその効果をデータとして示すにいたらなかったため、今年度はアンケートを実施した。以下に、2024年度の研究成果について「研究概要」で示した4つの目的にのっとり振り返る。
(1) 大学生を対象として観光パンフレットの内容についてアンケート調査を実施した。デザインやカラーに関しては、全員が肯定的で「レトロな雰囲気でとてもいいと思う」「古い絵の色味がきれいにでていていいと思った」「catches my eyes」などの記述に代表される。また、家族や友人にあげたいかどうかについても、1名を除き肯定的で「I think my family and friends would also be interested to know about Shirahama and encourage them to visit」という回答であった。課題としては、情報量の少なさが指摘された。
(2) 『昭和レトロな和歌山案内 白浜編』を日本語?英語の両言語で発行することができた(図1)。これにより言語の壁が低くなり、海外の潜在的旅行者や来訪者にとっての利便性が高まった。
図1.『昭和レトロな和歌山案内 白浜編』(日本語版)
(3) 「学生や生徒達の地域教育、歴史教育、環境教育にも活かす方法を検討し提案する」に関して、プロジェクトメンバーの石川氏が大阪大学外国語学部の授業において約100名の受講者に対し『昭和レトロな和歌山案内 白浜編』を用いて授業を実施した。留学する学生がほとんどであることから、外国語を学んだ際、実際に必要になる知識は自国文化であることなどを理解させるのに大いに役立った。特に和歌山の歴史文化を知ることになったが、「自分の地元の鳥観図を用いて同じようなパンフレットを作っていただきたい」などの意見も多く、好評であった。
(4) 「パンフレットは情報を得るための手段としてだけでなく、アートとしての側面から、旅行後も観光者のもとに旅の思い出とともに保存されることを期待し、初三郎鳥瞰図のアート性についてもパンフレット制作のベースとして研究する」に対して、Mohamed氏および山北氏が担当する授業を中心に配布した際の学生の反応を振り返ると、第一に、留学生から色やデザインに対する感嘆の表現が発せられた。また、一般の日本人からの意見として、パンフレットが「日本的」であることへの高い評価と素晴らしい記念品?贈答品として利用できるというフィードバックが得られた。今後の課題として、紙面が限られるため、いかに必要な観光情報を効果的に提供できるかを検討する必要がある。